「ポルノ依存症」という病名はありません。あるのはWHO ICD-11の「強迫的性行動症」で、その中心は自己嫌悪の強さではなく「制御できない状態が6か月以上続き、生活に支障が出ているか」です。この記事では、ICD-11の4条件、査読済みで検証された2つの尺度(5項目と19項目)、点数の読み方、そしてどこからが相談・受診の目安かを整理します。
下の尺度の日本語訳はこの記事による仮訳で、公式に検証された日本語版ではありません。点数は自分の状態を言葉にする材料として使い、診断の代わりにしないでください。
WHOの国際疾病分類ICD-11には「強迫的性行動症(compulsive sexual behaviour disorder)」という項目があります。World Psychiatry誌に載った解説「Compulsive sexual behaviour disorder in the ICD-11」(2018年)が引用するICD-11の記載によると、中心となるのは「強い、反復する性的衝動を制御できない持続的なパターンが、長期間(例: 6か月以上)にわたって反復的な性行動として現れる」ことで、次のような形で現れます。
| 条件 | ICD-11の記載(要約) | 自分に当てはめる問い |
|---|---|---|
| 生活の中心化 | 反復的な性行動が生活の中心になり、健康や身の回りのこと、他の関心や責任をおろそかにする | 見る時間のために、仕事・睡眠・人付き合いを削っているか |
| 制御の失敗 | 減らそう、やめようと何度も試みたが成功していない | 本気でやめようとした回数と、続いた日数 |
| 悪影響があっても続く | 関係の破綻や仕事上の不利益など、悪い結果が繰り返し出ているのに続けている | 見ることが原因で、実際に失ったものがあるか |
| 満足がなくても続く | ほとんど、または全く満足を得られないのに続けている | 楽しいから見ているのか、止まらないから見ているのか |
そして同じ記載に、もう一つ大事な条件があります。同誌の「Emerging experience with selected new categories in the ICD-11」(2022年)の引用では、「性的な衝動、欲求、行動に対する道徳的な判断や非難のみに関連する苦痛は、この要件を満たすのに十分ではない」とされています。つまり、見た後の自己嫌悪がどれだけ強くても、それだけでは診断になりません。診断の軸は苦痛の強さではなく、制御の失敗と生活への支障です。
なお、この項目は依存症のグループではなく衝動制御症のグループに置かれています。総説「Online Porn Addiction: What We Know and What We Don't—A Systematic Review」(2019年)も、耐性や離脱といった概念はポルノについて「依存」というラベルを正当化できるほど確立していない、と述べています。「ポルノ依存症」は検索語としては通じますが、病名ではありません。
米国の退役軍人224人、全国代表サンプル1,466人と1,063人、ポーランドの一般成人703人と治療希望者105人で検証された尺度「Validation of a Brief Pornography Screen across multiple samples」(2020年)は、次の5項目です(仮訳。過去6か月について、0=全くない、1=ときどき、2=とてもよくある)。
開発者は「現時点では、この尺度で陽性であることを、背後に精神疾患があると診断するものと解釈すべきではない」と明記しています。5項目のうち、項目4(感情への対処として使う)は、依存の話というより「他に対処手段がない」というサインとして読むと、次にやることが見えます。
ICD-11の記載に沿って作られた尺度が「The development of the Compulsive Sexual Behavior Disorder Scale (CSBD-19): An ICD-11 based screening measure across three languages」(2020年)です。米国・ハンガリー・ドイツの合計9,325人で検証され、次の5つの領域を測ります。
各項目は1〜4点、合計19〜76点で、開発論文では50点が高リスクを見分ける最適な閾値とされています。ここでも開発者は「自己記入式の尺度は診断過程の第一段階(スクリーニング)としてのみ使い、その後に臨床面接が続くべきだ」と書き、検証が一般集団のみで臨床集団では未検証であることを限界として挙げています。
Web上には独自のチェックリストが多くありますが、2019年の総説は、よく使われていた9項目の尺度(CPUI-9)について「感情的な苦痛」の項目が点数を上に歪めるため信頼できないと指摘しています。苦痛の強さを点数に入れる尺度は、ICD-11の「道徳的な苦痛だけでは診断しない」という記載と噛み合いません。
どちらの結果でも、やることは大きく変わりません。違うのは順番です。
相談先の一覧は、国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」に公的な窓口としてまとまっています。性機能の不調(勃起や射精の問題)が同時にある場合は、日本泌尿器科学会の案内どおり泌尿器科が窓口です。詳しくはセックスレスとポルノの見すぎに書きました。
尺度は「今日の状態」を測るものです。1回の点数より、30日後、90日後に同じ5項目をつけ直したときの変化のほうが、自分にとっての情報になります。特に項目1〜3(望む以上に使う・やめられない・衝動に抵抗しにくい)は、記録と環境設計で動きやすい項目です。続かない構造の直し方はオナ禁が続かない理由と挫折しない仕組みに、90日で一般に起きることはリブート90日の経過にまとめました。
「ポルノ依存症」という病名は、WHOのICD-11にも米国のDSM-5にもありません。ICD-11にあるのは「強迫的性行動症(compulsive sexual behaviour disorder)」で、依存症のグループではなく衝動制御症のグループに置かれています。査読済みの総説(2019年)も、耐性や離脱といった概念はポルノについて「依存」と呼べるほど確立していないと述べています。
いいえ。尺度の開発者自身が、自己記入式の尺度は診断の第一段階(スクリーニング)にすぎず、臨床面接が必要だと書いています。5項目のBrief Pornography Screenは4点以上で「専門家による追加評価を勧める」目安、19項目のCSBD-19は50点が高リスクの目安ですが、どちらも「陽性=診断」ではありません。
それだけでは違います。ICD-11の記載では、性的な衝動や行動に対する「道徳的な判断や非難に関する心理的苦痛」だけで強迫的性行動症と診断してはならない、とされています。自己嫌悪の強さと、生活への支障や制御の失敗は別の軸です。診断の目安になるのは後者です。
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