未払いは「記録を残しながら、軽い手段から順に」進めます。電話と請求書の再送で動かなければ内容証明、次に支払督促か少額訴訟です。それでも回収できないときは、所得税基本通達が定める3つの場合に限り、貸倒損失として必要経費にできます。どの段階でも証拠になるのは出面記録と請求書控えです。
この記事は令和8年分(2026年1〜12月、申告は2027年2〜3月)を前提にしています。裁判手続は2026-09-12時点の裁判所の案内によります。
いきなり裁判所に行く必要はありません。ただし、どの段階も「いつ・誰に・何を言い、相手が何と答えたか」を残しながら進めます。後で支払督促や少額訴訟に進んだとき、この記録がそのまま証拠になります。
| 段階 | やること | 費用・期限 | 残す記録 |
|---|---|---|---|
| 1. 電話・メール | 「○月分の請求書(No.○・○円・支払期限○日)の入金が確認できません。いつ振り込めますか」と、日付を聞く | 無料 | 日時・相手の名前・返答(振込予定日)をメモ。メールなら送信控え |
| 2. 請求書の再送 | 同じ番号の請求書に「再発行」と入れ、支払期限を切り直して送る | 無料 | 再送した日付と方法。PDFなら送信履歴 |
| 3. 内容証明 | 請求額・根拠(現場名・期間・人工数)・支払期限・振込先を書き、「期限までに支払がなければ法的手続をとる」と明記 | e内容証明は1枚の例で1,295円(郵便料金110円+電子郵便料金19円+内容証明料金382円+謄本送付304円+一般書留480円) | 謄本(差出人控え)が郵便局から返る。これが「催告した日」の証拠 |
| 4. 支払督促 | 相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申立て。書類審査のみで出頭不要。相手が2週間以内に異議を出さなければ仮執行宣言を申し立て、強制執行に進める | 手数料は裁判所の「手数料早見表」で確認(郵便費用は手数料に一本化)。令和8年5月21日からオンライン申立て(mints)も可 | 出面記録・請求書控え・内容証明の謄本・通帳の写し |
| 5. 少額訴訟 | 60万円以下の金銭請求。原則1回の審理で判決。証拠はその場で調べられるものに限る。同じ裁判所に年10回まで | 手数料は手数料早見表で確認。分割払や支払猶予の判決になることもある | 同上。証人がいるなら審理の日に同行できる人 |
支払督促は「相手が異議を出すと通常訴訟に移る」手続です。相手が争う姿勢なら、最初から少額訴訟(60万円以下)か通常訴訟を選ぶ方が早いことがあります。金額が大きい、相手が法人で倒産しそう、といった場合は弁護士会の法律相談や法テラスに相談してください。
請求できる債権は、権利を行使できることを知った時から5年で時効にかかります(民法166条1項1号)。一人親方の人工代なら、通常は支払期限が来た時から数えます。数年分の未払いを放置している人は、古いものから消えていくと考えてください。
内容証明などで支払を求めること(催告)をすると、その時から6か月を経過するまで時効は完成しません(民法150条1項)。ただし、猶予中にもう一度催告しても延びません(同条2項)。6か月のうちに支払督促や訴訟に進む必要があります。
国税庁のタックスアンサーNo.5320は法人税の説明ですが、所得税も同じ骨組みで、所得税基本通達51-11〜51-13に書かれています。個人事業主の事業所得では、事業の遂行上生じた売掛金などの貸倒れによる損失を、損失が生じた年分の必要経費に算入します(所得税法51条2項)。
| 場合 | 要件(所得税基本通達) | 落とせる額・時期 |
|---|---|---|
| 法律上の貸倒れ(51-11) | 更生計画・再生計画の認可、債権者集会の協議決定などで切り捨てられた。または債務者の債務超過が相当期間続き、弁済を受けられないと認められる場合に、債務免除額を書面で通知した | 切り捨てられた額・免除を通知した額。その事実が起きた年分 |
| 事実上の貸倒れ(51-12) | 債務者の資産状況・支払能力からみて全額が回収できないことが明らかになった。担保があれば処分後。一部だけ回収不能では使えない | 全額。明らかになった年分 |
| 形式上の貸倒れ(51-13) | 継続的に取引していた相手と、資産状況の悪化で取引を停止し、停止の時(最後の弁済期・最後の弁済の時の方が遅ければその時)から1年以上たった。担保があるものは除く | 売掛債権(未収請負金を含む)から備忘価額を引いた残額。1年たった年分に「算入することができる」 |
一人親方で現実に使えるのは、ほとんどが3つ目です。元請けが払わないので現場を離れ、それから1年以上たっても入金がない、という状態なら、備忘価額1円を残して落とせます。注意点は「継続的な取引先」に限ること。一回きりの現場の未収金には、この1年ルールは使えません(51-13の注)。その場合は2つ目の「全額回収不能が明らか」を立証する必要があり、相手の廃業・所在不明・破産などの事実を集めることになります。
インボイス登録などで課税事業者になっている人は、貸倒れになった金額に含まれる消費税額(税込額×7.8/110)を、貸倒れが生じた課税期間の売上税額から控除できます(国税庁No.6367)。免税事業者にはこの控除はありません。また、青色申告者は年末の売掛金を基礎に貸倒引当金を繰り入れる制度もあります(所得税法52条2項)。繰入率などの細部は税務署で確認してください。
帳簿は7年、請求書などの書類は5年の保存義務があります(国税庁No.2080)。貸倒損失を経費にした年の申告では、税務署から根拠を聞かれることがあるので、上の5点を1つのフォルダにまとめておいてください。
事業所得の収入は役務の提供を完了した日に計上するのが原則で(所得税基本通達36-8)、入金の有無で年分は変わりません。未入金でも売上に入れて申告し、回収できないことが確定した年に貸倒損失として経費にする、という順番です。売上に計上していない未収金は、そもそも貸倒損失にできません。
任意に値引きした分は、原則として貸倒損失ではなく売上の値引きとして扱います。貸倒損失にできるのは、債務者の債務超過が相当期間続いて弁済を受けられないと認められる場合に書面で債務免除を通知したとき(所基通51-11(4))などに限られます。単なる交渉での減額は要件を満たさないので、合意書を残した上で売上のマイナスとして処理してください。
請求は可能ですが、証拠が薄いほど不利です。出面記録(日付・現場・人工)、相手とのLINEやメール、元請けの出面表や日報の写し、材料の納品書など、働いた事実を示すものを集めてください。今からでも請求書を作って送り、内容証明で催告すれば、その時から6か月は時効が完成しません(民法150条)。
親方帳は一人親方・職人の出面帳アプリです。現場ごとに出面(人工)を記録すると、常用・請負の別と人工単価から請求金額が計算され、そのまま請求書PDFを発行できます。発行した請求書は入金待ち/入金済みで管理できるので、「どの現場の何月分が未入金か」が一覧で分かり、催促の起点になります。出面の記録と請求書の控えが同じ場所に残るため、この記事の証拠5点のうち2点はアプリを開くだけで揃います。
基本無料・買い切りPro ¥1,000 | データは端末内保存 | ブラウザで使えるWeb版
いずれも2026-09-12に確認。